※令和6年12月16日現在の法律に準じた内容です。
離婚の際にとても重要なのが財産分与です。財産分与の対象になるものは多いので、事前に把握しておくことで話し合いもしやすくなるでしょう。
今回は離婚時の財産分与について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
まずは財産分与がどのようなことか、こちらで解説します。
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産を離婚時にそれぞれの貢献度に応じて分けることです。法律(民法)で「離婚をした夫婦の一方は相手方に対して財産の分与を請求することができる」と定められていますので、専業主婦(夫)にも夫婦の財産を受け取る権利があります。一方が家事や子育てを頑張ったからこそ夫婦の財産が築けたと判断されるので、取り分が一切ないということにはなりません。
財産分与は、夫婦が共同生活の中で形成した財産の公平な分配だけでなく、離婚後の生活保障や離婚の原因をつくったことへの損害賠償の要素もあるとされ、財産分与には3つの方法があります。
精算的財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を清算するもので、財産分与の基本となります。清算的財産分与では、婚姻期間中に形成した財産を夫婦それぞれの貢献度に応じて公平に分けます。
夫婦の一方が離婚後の経済状況に不安がある場合、その生活を維持するために財産分与することを扶養的財産分与といいます。離婚すれば夫婦間の扶養義務はなくなりますが、離婚後の生活保障として行うものです。一般的に夫から妻に対して支払われるケースが多いですが、扶養的財産分与は義務ではないため、夫婦間での話し合いで決定することになります。ただし、裁判に発展した場合は、どの程度生活が困窮するのかを考慮して決定されます。
夫婦のうち一方の有責行為が原因で離婚になった場合、精神的苦痛に対する慰謝料として財産分与することを慰謝料的財産分与といいます。具体的な有責行為としては不倫やDVなどが該当しますが、一般的に有責行為を理由とした離婚の場合、慰謝料と財産分与は性質が異なるため、財産分与とは別に慰謝料請求を行うケースが多いです。
ただし、慰謝料と財産分与をまとめて請求する場合もあり、慰謝料的財産分与では、慰謝料とは異なり、ペット、不動産、有価証券など金銭以外の財産を請求できるといった特徴があります
財産分与は、離婚時に夫婦のどちらからでも請求できます。これまで紹介したように、財産分与は夫婦で協力して築いた財産を清算することなので、清算的財産分与として有責配偶者からでも請求できます。また、専業主婦(夫)や共働きなど働き方も関係ありません。
なお、財産分与は法律で認められた権利ですから、財産分与を請求されたら原則として拒否することはできません。
ただし、財産分与は夫婦の話し合いによって決まるので、夫婦間で合意すれば財産分与をせずに離婚することも可能です。財産分与をしないことを「財産分与請求権の放棄」といいます。
財産分与の対象になるのは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産で、「共有財産」といいます。婚姻期間中に夫婦の協力で築いた財産であれば、夫婦のどちらの収入で取得したか、どちらの名義になっているかなどにかかわらず、共有財産となります。ただし、共有財産となるのは、通常は別居するときにあった財産に限られます。
具体的にどのようなものが共有財産になるのか、こちらで紹介します。
結婚後に購入した土地や住宅などの不動産は、名義にかかわらず共有財産に該当します。結婚前から所有している不動産は該当しない点に注意しましょう。また、結婚後であっても、それぞれが親族から相続した不動産や土地は該当しません。あくまでも、結婚してから夫婦、またはそれぞれが購入したものに限定されます。なお、離婚していなくても別居後に購入したものは共有財産とは見なされません。
住宅ローンが残っている不動産の場合、不動産の査定価格よりもローンの残存が多い(オーバーローン)と財産分与の対象にならない点にも注意してください。
経済的価値があるものとは、自動車、家具・家電、美術品、貴金属など、一定の経済的価値があると判断されたものです。夫婦どちらかが購入したものであっても、共有財産になります。また、婚姻期間内で購入した株式、投資信託、国債などの有価証券も含まれます。有価証券は時期によって評価額が変わるので、一般的には離婚時の評価額が反映されることを覚えておきましょう。
婚姻中にためたお金は、名義に関係なく共有財産と見なされます。そのため、個人で口座を持っていた場合でも財産分与の対象です。また、どちらの収入による貯金かも関係ありませんので、専業主婦(夫)であっても分配されます。
婚姻中に加入した生命保険、学資保険は、解約時に返戻金があるものに限り共有財産になります。受取人の名義は関係ありません。なお、結婚前から加入していた保険の場合、婚姻期間中に払い込んだ保険料に対応する返戻金が対象になります。
ただし、学資保険は夫婦のためではなく、子どものためのものでもあるので、夫婦間の同意がある場合は毎月の保険料を養育費の一部とし、財産分与から外すことも可能です。
退職金は夫婦それぞれが勤務先から退職時に受け取るものですが、給与の後払いとしての性質があるので、婚姻期間に対応する分については共有財産扱いになります。
例として、40歳で結婚して60歳で退職した場合、共有財産扱いになるのは婚姻期間の20年分です。30年勤続して600万円の退職金を受け取った場合、婚姻期間20年分の400万円が共有財産扱いになり、その400万円を分けることになります。このように、退職金は婚姻期間に対応する分を夫婦で分けることになるので、事前に婚姻期間に対応する退職金がどれくらいかを調べておきましょう。
なお、すでに退職して退職金を受け取っている場合、使った分は共有財産から外れます。また、別居期間は婚姻期間に該当しない点にも注意が必要です。
退職金については退職金に関する規定、勤め先の規模や財政状況、転職歴などさまざまなことを考慮して決定されるので、悩んだ場合は専門家に相談することをおすすめします。
厚生年金は、財産分与ではなく「年金分割」という制度により分割を受けることができます。年金分割には、当事者からの請求による「合意分割」と被扶養配偶者からの請求による「3号分割」の2種類があります。合意分割は婚姻期間の被保険者期間について、3号分割は第3号被保険者であった期間の被保険者期間について、それぞれの標準報酬が改定され、将来受け取る年金に反映させるものです。なお、国民年金(基礎年金)は各人の固有のものですから、年金分割や財産分与の対象になりません。
年金分割については、詳しくは年金事務所で確認してください。
反対に、財産分与の対象にならないものとしては、「特有財産」があります。間違えないよう、こちらでよく確認しておきましょう。
特有財産とは、婚姻期間に関係なく、夫婦の一方が単独で保有している財産で、夫婦が協力して築いたものとはいえない財産のことです。特有財産は、婚姻期間中に取得したものであっても、それを取得した者の固有の財産として財産分与の対象になりません。
特有財産に該当するものは、主に3種類です。
結婚前からためていた個人の貯金や、実家から持ってきた嫁入り道具などは、婚姻以前の財産として特有財産に該当します。ただし特有財産でも、その価値を維持したり増加させるなどに、婚姻後に夫婦の協力がある場合は、貢献度に応じて財産分与の対象と見なされることがある点に注意しましょう。
なお、特有財産を使った投資の利益や家賃収入も特有財産扱いになります。
夫婦それぞれがお互いの親族から相続した財産は、すべて特有財産です。婚前、婚姻期間に関係なく、共有財産扱いにはなりません。具体的には、遺産相続で得た金銭、土地、不動産、その他金融価値があるものが該当します。また、親族から贈与されたものも特有財産です。
ブランド品や貴金属など、経済的価値があるものでも、特有財産から購入資金を出したものは特有財産扱いになります。また、結婚指輪や婚約指輪を含め、相手からプレゼントされたものも特有財産です。
婚姻期間中に築いたものであっても、子ども名義の財産や法人名義の財産がある場合は、それぞれの名義人のものと見なされるので財産分与の対象にはなりません。夫婦どちらかが会社経営をしている場合などに、株式や資産について争われることがあります。
共有財産か特有財産かの判断が難しい場合は、状況によって個別で判断されることもあるので、専門家の判断を仰ぐとよいでしょう。
ここでは、財産の分け方について解説します。
財産分与の割合は財産形成への貢献度に応じて決めることになりますが、共有財産の財産分与の割合は、原則2分の1です。これは、財産形成への貢献度は、特別の事情がない限り夫婦とも同じと考えられるためです。ただし、双方の合意や話し合いによって分割割合は変更できます。
なお、話し合いでお互いが同意できない場合は、裁判所に申し立てて調停や裁判をして決めることになります。調停や裁判では、基本的には財産を2分の1ずつ分けることになるケースが多いですが、夫婦の収入や貢献度、財産の種類などを考慮して、例外的に割合が変更されることもあります。
例外的に財産分与の割合が変更されるケースを3つ紹介します。
夫婦のうち、どちらか一方が特別な資格や能力を持ち、それによって多額の財産が形成された場合は、能力面が考慮され、分与の割合が変更されることがあります。具体的には、芸術家、音楽家、医師、弁護士、スポーツ選手などのケースです。
夫婦のうちいずれかが経営者などで非常に多くの財産を築いていた場合、もう一方の貢献度が低いと判断されることがあります。多額というのが具体的にいくらからとは決まっていませんが、数億円の資産がある場合などで起こることが多いです。
夫婦が同等に働いて収入を得ていたにもかかわらず、いずれか一方が家事・育児を一手で担っている場合などのケースです。家事や育児の負担が考慮され、負担していた側の貢献度が高いと判断されて分割割合にも反映されることがあります。
住宅などの不動産は現金ではないため、完全に等分することは難しいと思われるかもしれませんが、不動産の分け方には次のような方法があります。
もっとも簡単な方法が、不動産を売却して得た資金を半分ずつ分ける方法です。売却額によってはローンを完済でき、たとえ完済できなくてもローンを減らせるメリットがあります。
売却せずに分ける方法として、夫婦の一方が住宅を取得して、離婚後も継続して住み続ける方法があります。この場合は相手に対して、住宅の売却査定額からローンの残債を引いた金額の半分を渡すことになります。
仮に住宅の査定額が3,000万円、ローンが1,000万円残っている場合、(3,000万円-1,000万円)÷2になり、相手に支払う金額は1,000万円です。
なお、ローンの支払い義務は離婚後もローンの名義人にあるため、住宅の取得者がローンの名義人ではない場合には、あとで紹介するように必要に応じて名義変更などを行うことになります。
財産分与は、主に3つの方法で分与の割合が決まります。
離婚の前・後に関係なく、まずは夫婦間での話し合い(協議)をします。お互いにどのような財産があるのかを確認し、それぞれの分配方法を決定するための話し合いです。財産分与は、双方の合意によって取り決めることができます。本人同士が直接話し合うのが難しい場合は、代理人の弁護士のみで行うこともできます。
話し合いだけでは決められなかった場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。離婚前の場合は「離婚調停」を、離婚後の場合は「財産分与請求調停」を申し立てることになります。裁判所の調停委員会の仲介によって調停の内容で合意できた場合は、法的強制力のある「調停調書」が発行されます。
調停でも同意が得られなかった場合は、離婚前であれば離婚裁判によって、また離婚後であれば審判によって、裁判官に判断をしてもらうことになります。審判や裁判になると、解決するまでにかなりの時間がかかる可能性が高いです。
財産分与の際は、以下の点に注意してください。
財産分与は、離婚前に協議しておいて離婚と同時に請求することも、既婚後に請求することもできます。ただし、離婚してから2年を経過すると、家庭裁判所に申立てをすることができなくなります。
なお、調停や裁判の手続き中に2年の期限が超過した場合は、財産分与を請求する権利が失われることはありませんが、それ以外では請求権がなくなってしまいます。そのため、財産分与は早めに行動することが大切です。
住宅ローンが残っている場合は、ローンの名義人(債務者)に注意が必要です。
財産分与後も不動産の名義人と住宅ローンの債務者が同じ場合は、不動産の名義人は基本的に離婚前と同じようにローンを支払いながら住み続けることができます。
不動産の名義人と住宅ローンの債務者が別の場合には、不動産の名義人は債務者がきちんとローンの支払いを続けるのかに注意しなければなりません。万が一、支払いが滞った場合、金融機関に不動産を差し押さえられ、名義人が住み続けることができなくなるリスクがあります。できればローンの名義人を変更しておくほうが安心できるでしょう。
ローンの名義人変更が難しい場合は、ローンの借り換えによって名義を変更できます。借り換えとは、別の金融機関から融資を受けて現在のローンを完済し、その金融機関にローンを返済する方法です。詳しくは金融機関に相談してみてください。
借金などの債務があった場合、財産分与においては、マイナスの財産はプラスの財産から差し引くなど考慮されることになります。ただし、すべての借金が対象になるわけではない点に注意が必要です。
具体的には、婚姻中にできた借金のうち、生活費や医療費、子どもの学費などの婚姻生活の維持のための借金や住宅などの夫婦の財産を築くための借金などは、財産全体で計算するとプラスになっている場合に対象となります。
しかし、婚姻期間での借金であっても、個人の趣味やギャンブルでできたものは対象外です。また、独身時代の借金も財産分与の対象にはなりません。
夫婦のいずれかが事業主であり、運転資金や会社経営に必要な資金を借金していた場合も、基本的には対象外です。ただし、生活費を事業者の信用によってローンを組んだ、事業用車を家庭用にも使っておりローンがあるなどの場合は対象になる可能性があります。
財産分与の対象にはさまざまなものがあります。特に不動産はローンや名義のことも考慮する必要があるので、難しいと感じるかもしれません。離婚の理由や家庭環境によっては、なかなか財産分与のことを考える余裕がないかもしれませんが、財産分与には離婚から2年の期間制限があります。もし不安に思うことがあれば、一人で抱え込まず、早めに専門家を頼りましょう。